「東京女性図鑑」を面白くしている真実 ネットドラマ特有のUI設計
いやー久しぶりに面白かったドラマを発見しました。
ネットドラマ「東京女性図鑑」です。
アマゾンプライム会員限定ですが、バチェラーに継ぐ名作でしたね。ストーリーとしては東京タラレバ娘みたいな感じで、自分の幸せを見つけようと頑張るが、東京という街に翻弄され続けるある女性の成長物語です。
このドラマは普通のドラマ仕立てなんですが、最大の特徴は随所随所で主人公や登場人物達が心の声を語る、というシーンが入るんです。
妥協して結婚したアラサー女、客をなじる高級呉服店の女性スタッフ、タワーマンションのヒエラルキーに辟易する奥様の声、
彼女達が語るその心の声が妙にリアルで、人間の本音や心の汚い部分、理想と現実に挟まれて妥協する切なさなど、をいい感じに表現してくれてます。
日常に潜む女性たちの声を描き、切り取ることこそが、このドラマのタイトルにもなっている通り、「東京女性図鑑」なわけです。
このドラマを面白くしているのは脚本は勿論なんですが、
ネットドラマ特有のある工夫が施されていると感じました。それを述べます。
1、そもそも面白いドラマとは?
まず僕が思う面白いドラマの定義を述べます。
それは結果が予測できることです。
なぜかというと感情移入できるからです。
例えば僕の好きなドラマ「やまとなでしこ」では、貧乏人の欧介という魚屋の主人公が、恋心を抱く女性に勘違いしてカメレオンのおもちゃをあげてしまいます。
(その女性が欲しかったのはカメレオンというブランドの高級時計でした)
実際のドラマシーンでは、欧介がカメレオンのおもちゃが売っているお店を偶然発見してしまうのですが、見ている側は「まさかそれを買って桜子にあげちゃうの??!」と結果を予測してしまうのです。
そして本当にあげてしまって欧介は恥をかくのですが、この時の僕達の心のプロセスは
・結果を予測する
・結果が外れるor当たる
・感情が揺れ動く
となってます。
で、世間で言う「共感」ってのは感情の揺れ動きなわけですが、
その共感の正体は脳内で延々と「予測」と「当たりor外れ」の繰り返しをしているだけです。
そして面白いドラマは圧倒的に「思わず結果を予測させる」しかけがうまいです。これはドラマに限らず、映画でもプレゼンテーションでもそうなんですが、人間は正しい順番で情報を与えられると、勝手に脳が予想しだします。
例えば「バナナ」と「ゲロ」と言う言葉を唐突に与えられたら、
嫌な映像を人間は浮かべてしまいます。
スティーブ・ジョブズがプレゼンで「電話とipodとインターネットの融合だ」と言ったらそのデバイスを勝手に想像してしまいます。
プロの脚本家が描くドラマも同じで、登場人物の一見意味のないシグやさ、何の気なしに描く街の背景を時系列に提示することで、
その登場人物達の感情の輪郭を描き、それを視聴者に予測させたり、想像力をかきたてたりしてくれます。
逆に面白くないドラマではよく「感情移入できない」や「主人公の行動が全然理解できない」など言われますが、これは視聴者が結果を予測してくれていません。
例えば主人公の行動に一貫性がなかったり、発言と行動が伴ってない輩がいたりすると脳が混乱しますよね。新垣結衣がこの前出てた「獣になれない私たち」はまさにこれでした。
2、東京女性図鑑の場合
東京女性図鑑の場合、勿論ドラマ内でもそういう設計はされていたのですが、
僕はドラマ外の部分にその巧みな設計を感じました。
それは再生ページです。
東京女性図鑑をアマゾンで見る場合は、再生する前にその話のタイトルが見えちゃいます。なぜなら再生ボタンの横にタイトルが書いてあるからです。
東京女性図鑑ではタイトルの付け方が秀逸で、タイトルを見ただけでその話の結果を何となく予測できます。
例えば第7話のタイトルは「ブルータス、お前もか」でしたが、
このタイトルの時点で
「多分彼氏に裏切られちゃうのかな」と予測してしまいました。
またこのドラマでは数話ごとに「〜編」となっており、主人公が住む場所に合わせて
茶屋町編、恵比寿編、銀座編、、、となっています。
例えば僕は「豊洲編」を再生する前に、そのタイトルから
「港区ということはタワーマンションに住んだのか!?てことは結婚したの?」
と予測してしまいました。
つまりこのドラマでは視聴者が再生する前に感情移入のハシゴをつけて待ち構えてます。多分ネットドラマのKPIって視聴数よりも視聴時間の方が大事なんかと思います。本当の意味で楽しんでるのは離脱率の低いドラマかどうかであり、Amazonはそのあたりの設計を本当に真剣に、そして巧みにやっているなと思いました。
3、このドラマが伝えたかったこと
もちろん上記のはあくまで視聴者の満足をあげる一手段であり、このドラマのコンセプトや視聴者に伝えたい強いメッセージがあり、そのゴールがブレない展開だったからなのは間違いありません。
このドラマが伝えたかったことは何か自分なりに、考えていましたが、多分
「自分を信じる」
なのかなと思いました。
ただでさえ現代の選択肢が多い時代に、自分と他人を比較し少しでも人より大きい幸せを願います。
主人公の「綾」もそうでした。
綾が40歳前になり、東京の生活に疲れ、地元の秋田に帰った時、偶然高校の頃の先生に会います。
その先生は綾が東京で仕事で活躍していた時に取材された雑誌記事を嬉しく持ち歩いてました。
その当時の記事を綾に見せるのですが、綾はその記事を見て泣き崩れます。
それは自分が最も活躍していた時であり、
取材記事には「自分の決断を信じることができる」という当時の自分のコメントが掲載されていました。
でも今の綾は離婚し、仕事にも疲れ果て、自分が進んできた道が正しかったのか、自分の選択を信じてきてよかったのか、不安で泣き崩れたのではないか。
自分を信じる、という今最も難しい人々の命題を
このドラマの綾という一人の女性が東京に翻弄されながらも
最後はたくましく生きる姿勢を描くことで、僕たちの人生にも解釈を見出すような手助けをしてくれます。
ドラマを一気見した僕は、久々に誰かに見て欲しいドラマだなと思いました。
おすすめです。
ちなみにこのブログのタイトルでも
何となくこの記事の内容を予測できるようにして見ました。それではまた