SONYがマーケティングで突き抜けている理由 盛田昭夫氏
マーケティングの小手先論に飽きてきた人には是非読んでほしい書籍がある。
MADE IN JAPAN
わが体験的国際戦略(1986年著)
この書籍
盛田氏の歩んできた人生がSONYの発展という歴史を通じてまとめられているが、
文章がストーリーと含蓄に富むため、優れたハリウッド映画のように、
映像になって脳内に再生される。
SONYはまだ世にない商品の市場を作り上げてきた。
レコーダー、テレビ、ラジオ、ウォークマン、プレイステーション、AIBO。。。。
その連続的イノベーションの創出は、今のアップルに勝るとも劣らない。
しかし、その成功の裏に潜む、シンプルな本質、
思考様式はあまり知る人はいないのではなかろうか。
私もそんな一人であった。
この書籍の中で、最も印象的なフレーズは、
テレビのビデオレコーダーを発売した時。
盛田氏は以下のように振り返っている。
「井深氏と私が1975年に家庭用VTRベータマックスを市場に出した時、
我々はタイムシフト(時間に拘束されずにテレビ番組を見られる)という新しい概念を売ろうというマーケティング政策を立てた。消費者を啓蒙し、新概念を植え付けて、
ビデオテープレコーダーの市場を創造するということが私の考え方だった。
(中略)
だから一刻も早く人々をVTRに引きつけて競争に勝ちたかった。
私は自分の新しい発想に興奮していた。
しかし考えてみると、私はこの25年間、ずっとこのことを考えてきたのだ」
この一文に盛田氏、つまりSONYのマーケティングの真髄が込められている、と感じた。
盛田氏がずっと考えたきたことは、人間はテレビに時間を縛られているということであった。
好きなテレビの時間帯に自分の都合を合わせる、それはおかしなことではなかろうか、と。
盛田氏は実直なまでに人間中心で物事を考える。
そして、社会の目に見えていない不満を探し当て、それを自分の考える正しい世界へと
啓蒙して行くことがマーケティングだと喝破してるのである。
そして盛田氏がもう一つ、非常にこだわっているのは「言葉」である。
SONYの社名の由来もそうだが、
タイムシフト、というキャッチーな概念を自ら創作している。
1950年代に声のレコーダーを作った時、
「優れたバレリーナには自分の練習をみる鏡が必要だ。
同様に優れた歌手には自分の声を確認する鏡が必要だ。声の鏡、それがテープレコーダー」
と話す大賀氏にひどく感心している。
言葉が人を動かすことを知っているのだ。
それは目に見えない闇夜を照らすサーチライトのように、
人間の一歩先を照らしてくれるのだ。
あえてフレームとしてはまとめるなら、
・社会に潜む問題を探し
・その問題を解決する新たな概念を提唱し
・それをわかりやすい言葉にまとめあげ、人々に説く
つまりSONYが行ってきたのは、宗教に近い行為である。
この芸当が得意なのは、ジョブズやイーロンなど数少ない人間だけである。
深いところでマーケティングは何か、を久しぶりに考えみたい方に、
オススメだ。