これからの小売は非効率性が最大の武器となる
小売の衰退と叫ばれて久しい。
勿論アマゾンや楽天さんのおかげだ。
そしてこれからもますます小売は衰退していく。
あらゆる小売業者が自分たちの生きる道を模索しており、小売もデジタルトランスフォーメーションだ!と叫ぶが、虚しさのみが漂う。
今までの小売は消費者に様々な商品を適切な価格でお届けすることが目的であった。
しかし、ECがより便利に、早く、安く提供するポジションを奪ってしまった。
なら、小売はどうするか?ECが侵食する世界で同じポジションで戦うべきか?
いや、小売というリアルの最大の武器を活用して、一気にポジショニングを変えるしかない。
そしてその武器とは、リアル特有の「非効率性」である。
非効率性で一体どんな提供価値を与えるべきか?
非効率性により、合理化の極みであるネットからでは提供できない価値、つまり
人間の生存本能や渇望されている欲求をうまく刺激してあげることがチャンスとなる。
そしてそれは以下三つがキーワードである。
・快楽報酬の刺激、ドーパミン
・好奇心の刺激
・人肌感
⑴商品を探す楽しさ、ドーパミン
まず店舗を非効率化するとは、これまでの陳列の逆をいく必要がある。それは
適度に整列されている陳列棚と適度に見えにくさが入り混じった空間だ。
なぜかというと、人間のドーパミンをうまく刺激するためだ。
そもそも人間の快楽報酬を刺激するドーパミンはあらゆるビジネスと関わっている。
全てある程度の不確実性とうまく行った時のご褒美が絶妙に設計されている。
そしてこのご褒美が出た時に脳内に放出される物質がドーパミンである。
たとえば、SNSで自分の投稿にイイね、が付いている瞬間をみたら嬉しいと思うが、これもドーパミンが脳内に増えるからだ。
しかし、面白いことに、このドーパミンが最も放出されるのは、いいね、がついていることに気づいたときではなく、
SNSを開く瞬間の待ち時間、つまり「期待」している時間らしい。
つまり人間は、報酬が得られる瞬間ではなく、報酬を期待している瞬間に最も快楽を感じているのだ。
また、この自分の期待したものが得られる確率が50:50の時に最も強くドーパミンが分泌されると猿の研究からもわかっている。つまりどちらに転ぶのか本当に分からない、
その不確実性がたまらなく僕たちを楽しませるのだ。
ギャンブルなんかはまさにそれで、
スロットマシーンの目が揃う瞬間を待っているときがそれに当たる。
これが応用されたのがたとえばドン・キホーテである。ドンキの有名な山積み陳列は、あえて探しにくい陳列によりその探す行為「期待時間」を高めることに貢献している。
また、コストコなどもあえて商品数をしぼり、全ての商品が手に入りにくい店舗、つまり不確実性のある店作りを心掛けている。
要は、商品を探すという行為に付加価値をつけて、それを探すこと自体を面白くしてあげるのだ。ECで検索窓に一発でキーワードをぶち込んでお目当の商品を購入する方法はそれはそれで良い、ただリアルショッピングの価値は、一体どんなアイテムに出会えるのかという期待感の醸成であり、その価値をさらに高める設計を店舗自体で入念に作り込む。
(2)未知との出会いによる好奇心を煽る設計
二つ目は好奇心だ。グーグル先生のおかげで世界はだいぶクリアになってしまい、なんでも答えを得られてしまう現代。
それはECでも同じで自分が欲しいものは簡単に手に入る。
でも、今の僕たちの課題は、自分が欲しいものを得ることではなくて、
自分が心から欲しいもの(望んでいるもの)は何なのか?
を知ることの方がよっぽど大切だ。
インターネットからは分からないし、ECでも探せない。
一体自分は何に興味があって、何に好奇心を感じるのか?
すぐ答えが手に入る世界では好奇心は育まれにく現状だ。なぜなら、
好奇心は適度に知識がある状態の持続による探究心の高まりであるからだ。
そして、僕はリアル店舗こそが好奇心を刺激する最大のエンジンとなり得ると思う。
リアルの3次元情報による説明、さながら博物館のようなリアル店舗があれば、
未知との遭遇は必然となり、
自分が気づいていないことを知る最高の場所になりうる。
(しかも歩くことで脳はアイディアを生み出しやすいように活性化される。)
ミステリー小説風に少しづつ商品説明をしても良いし、参考情報やバックスとトーリーに多大なスペースを使っても良い。
少なからずその店舗に足を踏み入れるということは、興味のかけらが存在しているわけで、その店舗に入ってみさせることで、その周辺情報を知ることで、
自分に関係があるとさえ思わなかった世界を存分に楽しませてあげたら良いのだ。
こんな店舗があったらめちゃめちゃ非効率だが、その非効率性に振ることが最大の武器となる時代なのだ。
(3)人肌感
最後に人肌感。これは孤独な人たちが増える現代においての特徴だ。
人間は面白いことに、孤独になるとモノを擬人化する傾向がある。
これは映画キャストアウェイで主人公がバレーボールを人間に見立てたシーンがわかりやすい。また日本では、古くから飢饉が起こると神頼みをしていたが、あの辺も仏像なりを擬人化していることがわかる。
僕は単純に商品の陳列棚を擬人化しろと言っているのではなく、人間は孤独になると
「モノ」にさえ頼りたくなってしまうと、いう特性がある。
リアルなモノが存在する店舗は、メディアとして最強なのだ。
ブランドというある意味得体のないものと深く交流できて、その商品を使うことによる深い安心感や信頼感を伝えることができるメディア価値が店舗にはあるのだ。
無人化が進む店舗には、あえて人を設置し、モノに触れられる機会を多数設ける
「非効率性」こそがメディア店舗の第一歩なのだと思う。
以上、三つの論点を話してきたが、これら一つの要素に特化しても良いし、三つを高度に融合させても良い。
これからのリアル店舗は、人々を非日常空間を誘うことが唯一の生きる道だと思う。